永濱修|MY LIFE お世話になっている社会に私ができること

エッセイ

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わたしの「時の記念日」
永濱 修

6月10日、今年の「時の記念日」は私にとって特別な日となった。
県内にある 少年院から講話依頼をいただきました。

通称は……学園と呼ばれています。
尊い一日を終え、数日後、学園長よりお手紙と写真を頂戴いたしました。
そのお礼の手紙がなかなか出すことが出来ませんでしたが、やっと時間がつきお礼の手紙を出すことが出来ました。
この一日をとおして感じたこと、学んだことをお伝え出来ればと投稿いたしました。
ご高覧いただければ幸いです。

謹啓 初夏の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 過日6月10日、「時の記念日」に一介の時計職人が尊園での講話を担当させて頂きましたこと、また、身に余る書面等を頂きましたこと、一生涯わたくしの宝物に致さねばと感謝をいたしておるところでございます。
誠にありがとうございました。
 思い起こしますと、「時の記念日」の数日前、法務教官がご来店のおり、私どもの園でもお話をしていただけたら、との一言でわたしも即答してしまっていました。
毎年巡ってくる記念日、どこかでお招きいただき幼子と楽しく過ごしていますが、今年はゆっくりしてもと思っていた矢先のことで、願ってもない光栄なことでございました。
 自身、こころすることがあり、最近は中学校へ体験事業「ひょうごの匠」キャラバン隊の一員として県下の中学校へ出向き、体験を通じて生徒達と共に学んでおります。
県下と申しましても、北から南と広い範囲でしかも都会から山村、行く先々で思わぬ体験をいたします。積極的な生徒、控えめ
な生徒、乱暴な生徒、個性の強い先生、教育って本当に大変なんだ、と思うことしかりでございます。
 僭越なお話しになり恐縮ですが、先日近隣の中学校で荒れているとの噂があり、その言葉自体が一人歩きしている事もいやなものでございますが、その学校で担当をすることになりました。
始まりは体育館で生徒、先生、わたしども匠、120名程で全体会をいたします。
「こら!静かに!ちゃんと並べ!」声を荒くされる先生、体験は中学3年生全員でした。なかなか静かにはなりませんでした。
その後、各教室で2時間30分ほどの時間それぞれが選択した作業をして作品を完成させ、その作品を持ち寄り発表することになっています。そこでもう一度体育館に集合です。当然私たちも体育館へ集合いたしました。
中に入った瞬間その空気に、うむ これは何だ!と思いました。作られた整然ではなく、何かが違ったのです。静かだったとは思いませんでしたが、始まりの時のような飛びげりをするような生徒は全く見られません。実は私自身その様子にとても不思議な感覚を憶えました。
私なりに検証してみました。それは定かでは無いかも知れませんが、子供たちが関わった品物の出来、不出来、早く出来たり出来なかったりはあったけれども数時間集中し、一生懸命取り組んで仕上げた製品に一定の成果とともに、淡い充実感を見つけてくれたこともあるのではないだろうかと思った次第です。






 66歳になった私自身、50数年前そこら中何か触れる物があったら金槌や釘や、ありとあらゆる物を使って遊んでいた事を思い出します。そして完成、いや失敗、私たちはこれらの体験から学んだことが、尊い血になり、肉となっているのだと感謝をいたしております。
 昨今の大人の環境はいいものとは思えません。その中で子供は犠牲者かも知れません。
 一生懸命やる、そして些細でもいい、成果が感じられるのはとても幸せなことだと、今更ながら身につまる思いでございます。教育の原点がこのようなところにもあるのかなと思ったりいたしました。
 私たち技能士がこのような教育的な場所に参加できることも不思議ですが、尊い体験を通し、私自身を見つめる機会が与えられたことは、唯ひたすら感謝をいたすばかりです。
 このような事を申し上げて誠に恐縮ですが、先般講話をさせていただいた後、主任の先生からお礼のお言葉をいただきました。「ありがとうございました」と、その先生のまなこにうっすらと涙を浮かべておられたのを拝見してしまいました。
そうなんだ!日ごろ教官も一生懸命心を込め、心を痛めながら指導に当たられておられるのだろうな、と強く感銘を受けた次第でございます。

学園長さまをはじめ、教官のみなさまのご苦労を一市民として感謝をし、頭を低くするものでございます。
 スタッフの皆々さまの益々のご健勝を心よりお祈りもうしあげます。
勝手な思いをつらつらと記しましたこと、誠に申し訳なく存じます。またお礼が遅くなりましたこと、どうぞお許し下さいませ。
謹 白

以上がお礼の手紙です。温かな学園長、しかし園の中では教室の移動にすべて鍵を掛けなければ入れない空間、すべての生徒が、出所を目前の30名と共に過ごせたひと時、一期一会の尊い感謝で迎えた「時の記念日」でした。


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写真.png
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